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2011年9月17日土曜日

「ヘ長調」

 「へ長調」のお話です。私の若かりし日の其れは其れは悲しい物語です。
 20代の頃 私は大阪に勤務して居りまして、青春真っ盛りでありました。大阪の女性には独特の臭いが有りまして、若い人は勿論、高齢になるほどそれが激しくなります。<道頓堀のメタンガスの臭い>と言うヤツです。テレビを見て居ても大阪出身のタレントが出ると、画面が臭いそうな気がして仕舞います。あの 無遠慮な大阪弁を振り回されると、あの臭いを濃縮してぶっつけられた様な不快なものを感じます。
 処が 大阪にもそんな臭いを全く感じさせない女性が居たのです。芦屋にお住まいのお嬢さんで、此の人は綺麗な標準語を話しました。聞く処では 先祖代々芦屋の住民で、筋金入りのお嬢様です。
 幸運にも 其のお嬢様とお友達になる事が出来まして、或る時 清水の舞台から飛び降りる決心で、デートにお誘いを致しました。ピアノリサイタルが小さなホールで開催されまして、其れにお誘いを致しました所「お誘い戴きまして有難う存じます。喜んでお伴致しますヮ」と 望外の嬉しい御返事でした。
 当日 ショパンのピアノソナタを何曲か聞いて居ましたら、突然 隣の彼女の席の方から「プ~ッ!!」と 異様な音がしました。<へ長調>の音です。みんな此方を見て居ます。私はどうしたらいいか困って彼女の方を見たら、彼女は私を睨みつけて居ます。つまり 「いまの屁は私がしたのだ!何と言う無作法な!!」と言う表情です。私は呆れたり驚いたりで、只 黙って居ました。
 すると 又しても先程の<ヘ長調>の音がホールの中に響き渡りました。周囲に 私を犯人と認識させる事に成功したので安心したのか、今度は猛烈に大きななヤツをブ~~~ッ!!とやって仕舞ったのです。今度はもう誤魔化し様が有りません。みんな真犯人の彼女の方を呆れ顔で見て居ます。
 私は 彼女の手を引いてホールの外へ出ました。其の侭 彼女は私には何の挨拶も無く、地下鉄の駅へと消えて行きました。当日の彼女は、余程お腹の具合が悪かったのか、なにか変な物をお食べになったのか、きっと腸の中にガスが目一杯溜ってどうしようも無かったのでしょう。余り静かなリサイタルで、途中でトイレにも行けず、さぞ 苦しかっただろうと同情しましたが、其の後 彼女には二度と逢う事は出来ませんでした。本当に 上品で素敵な人だったのに・・・

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